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pet and aquarium

---その20:ホルスとの出会い---



かめっち(仮称)

OLYMPUS E-10
 春分の日を過ぎたある土曜日の午後、麻綾を連れてカローラ店に愛車スパシオの車検整備に出かけた。加賀まりこさんの「お茶してる間にできちゃうのね」のCMでおなじみのアレだ。嫁さんの同級生がセールスレディをしており、他愛ない世間話をしている間に整備が完了した。クレジットカードで代金を支払い、まるで新車のごとくピカピカに磨かれたスパシオに麻綾と二人乗り込んで、その場所から程ない距離にあるペットショップへと向かった。
 ショップへ着くと、動物好きの娘は大喜びで店内に駆け込んだ。私も元々動物が好きなので、ペットショップを見るのは楽しい。店の奥にはトリマーの人たちが犬のトリミングをしており、麻綾はその作業を目を輝かせて見入っていたが、突如、「パパ、まぁちゃん犬がほしい」と言い出した。思い返せば、私が初めて犬を飼ったのも、ちょうど麻綾と同じころだった。いや、うちの家族は昔から犬好きで、正確に言えば私が生まれた時には既に「クマゴロウ」という名の犬がいたし、その後もお菓子屋からもらわれてきた「チビ」という名の犬もいた。しかしクマゴロウは私がまだ赤ん坊の頃に老衰でこの世を去ったし、チビも子供のころからお菓子を食べさせられてきたため、うちに来たときには既にお腹に虫が湧いており、手の施しようがなく安楽死を選ばざるを得なかった。チビについては若干記憶の片隅にその姿が残ってはいるが、自分で世話をする名目で飼ったのは、幼稚園に入園した年にもらってきた「エル」が最初だったのだ。
 昨年、私はネットを通じて知りあった方からサキシマヒラタのペアをいただいて飼育を始めた。このクワガタが我が家に来るまでは、麻綾は虫が全く苦手だった。触ることはもちろん、近くに寄ってくるだけでも泣き出す始末だったが、私が毎日クワガタの世話をする中で、次第に麻綾も苦手を克服し、いまではケースを開ける度に「クワガタ触りたい!」と言えるまでになった。蛹化や羽化の様子を食い入るように見て興奮したり、何らかの事故で死んでしまった幼虫の姿に涙を流す。ペットとの暮らしは、子供の感性を豊かにし、感情のレンジを大きく広げるのだ。
 そう考えれば、私は娘の希望を受け入れて、今ここでお気に入りの仔犬を入園祝いとしてぜひ買ってあげたいところだが、あいにく我が家は借家暮らし。子供がまた一人増えるという時期に犬を飼う余裕は残念ながらない。とは言うものの、ペットを飼いたいという麻綾の意志は尊重したい。クワガタの飼育を任せるのはあまりにも危険が伴うので、何か見ていて楽しい、かわいいペットはないものだろうか。私は麻綾に「うちはお二階だから、犬は飼えないんだよ(室内犬なら飼えるというツッコミはナシ)」と言い聞かせ、何か他のペットを選ばせようとした。ウサギあたりを選んでくれれば、まぁ飼えないこともないだろう。
 ところが麻綾が選んだものは、何と「エボシカメレオン」。その次が「グリーンイグアナ」。そのまた次が「ベルツノガエル」。・・・シブい。シブ過ぎる。どういう感性なんだこの娘は。確かにどれも魅力的なペットばかりだ。そのエキゾチックな姿を見ていると、確かに飼育してみたい衝動に駆られる。しかし、カメレオンもカエルも肉食だぞ。生き餌を必要とするペットはパパ給餌の度に心がチクチク(笑)してしまうじゃないか。イグアナは草食だけど、人間より大きくなるようなトカゲ、うちに置いておけるわけがない。第一、この手の「一般ウケ」しないペットを(しかも事前通告ナシで)連れて帰ったら、嫁さんに何を言われるかわかったものではない。・・・私は考えた。麻綾は、犬以外の哺乳類を選択肢として持ち合わせていないらしい。選ぶものと言えば爬虫類か両生類。これらの中で、一般ウケが良く、かつ嫁さんの理解を得やすいと思われるもの・・・。
 「パパ! まぁちゃんコレほしい!」・・・私が思いを巡らせているときに、突如麻綾の声が店内をこだました。麻綾が見つめる先には、120cmはあろうかという大型のアクリル水槽の中で、ムシャムシャと葉野菜をむさぼるヒョウモンリクガメの姿があった。・・・カメ・・・。爬虫類か両生類で・・・クリア。一般ウケが良く・・・クリア。嫁さんの理解を得やすい・・・クリア。パーフェクトだ。こんなにも我が家のニーズに合った生き物の存在を、なぜ今まで思い出せなかったのだろうか。ただし、元気一杯野菜を頬張るヒョウモンリクガメは、成体の甲長が50cmに達する大型のカメだ。さすがにそこまで大きくなるカメはちょっと飼えない。水槽内にはこの他、ホシガメ、ギリシャリクガメ、ホルスフィールドリクガメの姿があった。ホシガメは見た目とても美しく、最も素人ウケするのだが、神経質で実際の飼育難易度はかなり高いらしいので怖くて手が出せない。連れて帰るとすれば、ギリシャかホルスということになるのだが、ギリシャは甲羅に閉じこもったまま全く出てくる気配がないため、元気かどうかも良くわからない。結局、最も初心者向きと言われるホルスを連れて帰ることになった。
 店員さんに飼育についての説明を聞き、必要な機材を一式とともにホルスを連れて自宅へ向かう。カメさんを買ってもらえて麻綾も大喜びだ。車の中で「カメさんは野菜をいっぱい食べるんだよ」と言う私。もちろん、「だから麻綾もカメさん見習って野菜をいっぱい食べなきゃね」という意味だったのだが、「じゃあ、まぁちゃんの分の野菜をみんなカメさんにあげればいいんだね」と大きな勘違いをする麻綾。家に着き、見慣れぬ客に興奮する悠希と「まーた何か買ってきたの?」と呆れ顔の嫁さん。だが予想通り「クワガタよりはいいけどね。何か名前つけてあげなくちゃね」と理解を得られた様子。名前・・・。何がいいだろう。せっかくのリクガメなのだから、ありきたりの名前では面白くない。ホルスフィールドだから「ホリー」なんてのはどうだろう・・・などと考えている横で麻綾が「かめっち」と一言。か、かめっち? いくらなんでもそりゃちょっとありきたりすぎないか? そこらの池にいるカメさんとはワケが違うのよ? 遠く外国からはるばるやってきた、ちょっと珍しいカメさんなのよ? もっと他に何かイイ名前が・・・。「わぁ、それいいね。かめっち、かわいいよ。うん」と、嫁さんも大賛成。・・・あ、あのね君たち? 本当にそれでいいと思ってるわけ? リクガメだから「リッキー」とか、そういう発想は出てこないの・・・?
 ・・・結局、娘と嫁さんの勢いに圧されて最高に安易な名前を付けられてしまった我が家のホルスフィールドリクガメ「かめっち(仮称)」。だが安心しろ、いずれパパがステキな名前を付けてやるからな・・・!


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