---その8:野外採取個体各種紹介〜カブトムシ羽化---
春に庭先で幼虫を見つけ、この辺りにもまだまだ昆虫が生息していると知った私は、昆虫フォーラムの会議室で多くの諸先輩方にクワガタ飼育についてのアドバイスをいただいている。その中で聞いた話では、ここ福島というのは元々クワガタ採取にもってこいの土地だということだ。確かに私も毎年の様に若干数の個体は目撃しているが、小学生のときに期待に胸を膨らませて越してきたものの、その年の夏に近所の山へトラップを仕掛けて翌朝早くに見に行って、数頭のカナブンしか採取できなかったこともあり、意外と福島には昆虫が少ないものだと思い込んでいた。桧枝岐がオオクワの産地として全国的に有名なことは知っていたが、福島と桧枝岐では同じ県内であっても決して近隣とは言えない。もちろん、17年前のカブト幼虫の大量採取のときは大いに感動したが、いま思えばあの場所はカブトムシを養殖していたのではないかと思わないでもない。ところが昆虫フォーラムで私が福島からアクセスしていることを告げると、夏の夜に13号線をひとっ走りするだけで、大量のクワガタが採取できるとの情報を教えていただくことができた。ただし、ネットで詳細に採取ポイントを公表してしまうと、全国からその場所に一気に採取者が訪れて、樹皮はめくるわ朽木は壊すわで大変なことになってしまうらしいので、具体的な採取ポイントは聞かなかった。このあたりの山々にそれだけのクワガタが潜んでいるという情報を得ただけでも充分だろう。クワガタは川沿いの柳の木にも多くつくということなので、嫁さんの実家近くの橋の上あたりが狙い目かもしれない。そこならば毎週、実家に行った帰りに立ち寄ることもできるから、非常に都合がよい。橋上採取ならば、放っておけば轢死してしまう個体を拾ってくるわけで、自然破壊をせずに安心して採取できる。
・・・というわけで、何度か娘を連れて橋の上に行ってみたのだが、虫が集まるのを避けるためか、街灯がいつの間にか白色から橙色に変わってしまっていた。そう言えば、市内を流れる阿武隈川のアミメカゲロウの大発生も、このところあまり見かけなくなった。交通事故を防いだり橋の奇麗な状態を維持したり、はたまた昆虫そのものを保護するにはとても有効なことではあるが、虫捕りが目的で出かけた身としては少々残念である。それでも、道路を見ると轢死したノコギリやミヤマの残骸がいくつかあり、こんな環境でも多少は飛来していることがわかる。特にミヤマは、その橋よりも遥かに標高の高い場所に生息しているはずなので、灯かりを求めて里に降りてきた時に、ある程度の明るさのある橋を見つければ、更に明るい場所を見つけようとは思わないのではないだろうか。ノコギリに関しては何たって実家の庭先に産卵しているくらいなので、元々数が多いのだろう。今年はこの橋の上に何度か訪れたが、大歯型のノコギリ♂2頭とミヤマの♀1頭を採取した。決して大漁とは言えないが、家にはサキシマの子供たちが数多くいるので、採取を体験できれば充分だ。
ノコギリクワガタ♂
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ノコギリクワガタは動きがとても面白い。里子にいただいたサキシマヒラタは、その巨大な体に見合った、ゆっくりと力強い動き方をする。コクワはいかにも臆病者ですと言った感じでコソコソ歩く。大きさの違いがそのまま動きに現れているような感じだが、いずれにしても人間の手が近づいてくると、怖がって逃げようとする。動物の本能として当然の行動だ。ところがノコは違う。年柄年中臨戦態勢で、いつ見ても大アゴを広げて威嚇している。この写真を撮るときも、いくら横を向けてもすぐにカメラ目線(笑)で威嚇してくるので困った。コクワやヒラタと違って日中でも活動する種だというのもあるだろうが、飼育ケースの前を人が通り過ぎるだけで、限られたケースの中を大あごを広げて追いかけてくる。ゼリーを換えてあげようとケースに手を入れようものなら、わざわざマットから這い出してきて指を挟むのだ。「君子危うきに近寄らず」という言葉を知らないようで(当たり前だ)自ら危険に近づいていく大馬鹿モノなのだ。そのくせ装飾性の強いその大あごは見かけ倒しで、挟まれても大して痛くないのだから笑ってしまう。大方、道路で轢死している個体も走り来る車の姿を見て自ら大あごを広げて挑んだに違いない。「勇敢」と「無謀」は別物だということを、ぜひとも教えてやりたいところだ。ただ、自宅で観察している限りは、コソコソ系のクワガタよりは見ていて面白いのは確かだ。
ミヤマクワガタ♀
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ミヤマの♀については、先に採取したノコギリ♂の嫁さんを探していたので、発見したときには小躍り状態だったが、自宅に持ち帰ってよく観察すると、どうもノコギリではないようである。ノコギリの♀は全体的に丸く、上から見るとラグビーボールのような体型をしているはずなのだが、この♀は頭部、前胸部、胸部&腹部がそれぞれしっかりと独立しており、比較的スマートなのだ。大アゴも立派で、腹部は金色の微毛で覆われている。何より脚に黄褐色の紋があり、誰がどう見てもミヤマだった。こうなってくるとミヤマの♂が欲しくなるが、野外採取の♀は基本的に交尾済みと思った方が良いらしいので、もしかしたら産卵してくれるかもしれない。ただ、ミヤマは産卵はするものの、幼虫の成長段階で死んでしまう個体が多いとか。「深山」の名が示すとおり、元々、春先まで雪に覆われて、初夏になっても冷たい水が湧き出るほどの深い山奥に生息する種のため、人工飼育下ではどうしても温度管理が難しいものと思われる。渓流魚を飼育している水槽内にプラケースを浮かべてその中で飼育したらうまく羽化できたという話はネットで拝見したが、この方の飼育環境は冬場で摂氏15度。夏場でも18度までに保たれているとのこと。北海道あたりであれば比較的簡単に実現できるだろうが、ここ福島ではクワガタ用に一つ部屋を設けない限りまず繁殖は無理かもしれない。
家にはこの他、成虫としてはコクワが♂1頭と♀4頭がいる。全て採取個体だが、♀1頭は自ら部屋に飛び込んできたものだ。ある夜、家族4人で寝室に寝ていると、天井のほうで何やらブンブン音がする。何だろうと思い灯かりを点けると、蛍光灯の傘の中に♀のクワガタがいたのである。てっきり、プラケースから逃げ出したものと思って確認したのだが、フタはしっかりと閉まっているし個体数も合っている。寝室にプラケースを置いて飼育していたので、どうやら昆虫ゼリーの匂いに釣られて飛んできたものらしい。それが証拠に、プラケースに入れてやると翌朝までゼリーにかぶりついていた。サキシマヒラタ用に購入した(ちょっとだけ)高級なゼリーにありつけて、コクワもさぞ満足なことだろう。
カブトムシ♂
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また、ここへきてカブトムシが一斉に羽化を始めた。60cm水槽に10頭しか入っていないのでスペースに余裕があるらしく、ガラス面に蛹室を作ってくれる個体が1頭もいなかっかため、いまどうなっているかが全然わからなかったが、どうやら無事に育ってくれていたようだ。ただ、1頭だけは幼虫か蛹の時期に何らかの障害を受けたらしく、やたら小型な上、右前脚が途中から消えており、頭部・前胸部ともに右に湾曲していた。これも、大アゴの噛み合わないノコ同様、野生で生きていくことは困難でも、人工飼育下であれば生活に支障はないはずだ。羽化したその晩からブンブン飛び回り、昨日までの静寂はどこへやら、たいそう賑やかな水槽となった。出会ったその日にベッドインするサキシマの話は前にしたが、それでも羽化から数ヶ月の成熟期間を要して初めて生殖活動を開始するのだから、まだある程度の節操はあると言えよう。ところがカブトムシは羽化した翌日からお盛んに夜のお勤めに励むのだから、節操も何もあったものではない。しかも、イイ関係になって行為の真っ最中のペアを引き離し、割り込んで♀と交尾をしようとする♂もいて、なんとも激しい世界である。その昔、東京は目黒の父の実家に泊った時に、大鳥神社の縁日でカブトのペアを買ってもらったことがある。当時小学2年だった私は、♀の背中に乗りかかった♂を見て「♂が♀をいじめている!!」と勘違いし、まだ成就していなかった2頭を無理に引き離し、いじめられると困るから・・・と別々のケースで飼育して、そのうち秋が来て2頭とも死んでしまったのだが、いま思えばあの♂はきっと死んでも死にきれなかったのではないだろうか。(^^;)
嫁さんの実家は市街地よりは若干涼しいためか、まだカブト羽化の報告はない。だが、あの法事の日の幼虫採取以降に祖母や親戚の子によって採取されたクワガタの幼虫は順調に蛹化しているようだ。プラケースの壁面に見える蛹は、極小サイズのコクワのように思える。ノコの幼虫を採取したのと同じ朽木から、別種の幼虫が捕れていたというわけだ。やはりケースの底面で蛹化しているものが多いので、自宅に連れ帰って人工蛹室に入れることにした。蛹がみな小型なので、ノコ1頭分のオアシスで4頭収納可能な人工蛹室が作れる。その姿は、まるでカプセルホテルのように見える。採取した幼虫の数は8頭だったので、2組のカプセルホテルを用意して、蛹の掘り出しに取り掛かった。クワガタは元々朽木の中を食い進むので、マット飼育の場合にもケースにマットをギュウギュウに詰める上、一度加水したものが乾きかけているのでガチガチに固まって掘り出すのは一苦労だ。
ケースの外側から見えている3頭の蛹を掘り出して人工蛹室に移動し、続いて姿の見えない5頭を掘り出してみると、1頭は跡形も無く消え、1頭は蛹の姿で、1頭は幼虫のまま黒化して絶命していた。残りの2頭はまだ幼虫で、かなり大きく育っていた。小型のまま次々と蛹化したコクワたちと同じ環境で飼育しながら、いまだに成長を続けるこの2頭は、ひょっとすると来年羽化するノコギリなのではないだろうか? この2頭については、引き続きマット飼育を続行する。発酵マットがまだ完成していないので、しばらくは未発酵マットだ。飼育中に突如発酵が始まらないことを願いつつ・・・。
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