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---その5:幼虫飼育法の選択〜発酵マットを仕込む---


 ペアリングを施したら次にしなければならないのは幼虫の飼育準備である。幼虫の飼育には「材飼育」「マット飼育」「菌床飼育」の3つの手法があることは既述のとおりである。クワガタの種によっては合わないものもあるが、ヒラタ系はどの手法でも飼育できるとのこと。
 材飼育は餌となる朽木を適度に加水し、ドリル等で穴を開けてその中に幼虫を入れて飼育する。幼虫を収容した朽木はこれまた適度に加水したマットに埋めて保管する。自然環境にもっとも近い飼育法で、比較的キレイな成虫が羽化する反面、極度の大型個体はなかなか出ないし、羽化までに時間がかかる。また、材を割ってみない限り幼虫がいま生きているのかどうかさえ確認することができない。更には、幼虫の数が多いとやたら飼育スペースを食ってしまうのも難点で、現在では、あまり一般的な飼育法とは言えないようだ。
 マット飼育は朽ちた広葉樹(クヌギやコナラ)を粉砕したマットで幼虫を飼育する。比較的安価で、幼虫の大きさに合わせて飼育ケースを選べるので場所もとらず、透明のケースならば中の様子もよくわかるが、未発酵のマットを使用すると、稀に、ある日突然発酵が始まり、とんでもない熱を発して幼虫が蒸し焼きになってしまうという事故があるので、予め発酵させ、安定したマットで飼育するのが一般的のようだ。難点としては、発酵マットを作るのに手間と時間がかかり、発酵に失敗すると腐敗して幼虫を全滅させてしまうというリスクもある。
 菌床飼育は広葉樹マットにヒラタケやオオヒラタケの菌を植え付け、菌糸が充分に廻った状態のところへ幼虫を入れて飼育する。菌糸がマットを分解して吸収しやすくなった栄養素を幼虫に摂取させることで、短期間で大型の個体を得ることが可能となる。ただし、菌糸は高温に弱く、30度を超える環境では溶けてしまったり、子実体(キノコ)が発生してマット内の栄養素が消費されてしまったり、異常発酵で酸欠が起こったりする。菌糸瓶の中は常に外気より3〜5度ほど高くなることを考慮すると、常時22〜23度前後の環境を用意しなければならないことになる。また、死亡や羽化不全が多いのも、この手法の問題点と言える。

 私は今回、サキシマヒラタの幼虫を飼育するにあたってマット飼育を選択した。ホームセンターで衣装ケースを購入し、マット30リットルに対し800gの強力粉と適量の水を加え、ダマにならないようにまんべんなく攪拌する。あとは蓋をしてひと月ほど保管。その間ほぼ毎日、発酵が偏らないように攪拌して酸素を送り込む。数日の間に発酵熱が出て、聞くところによると50度とか70度とかの高温になるそうだが、なぜかうちではそこまでの熱は出ていない。セットして数日、ヨーグルトのような匂いがして少々焦ったが、どうやらその匂いは正常なようだ。更に数日が経つとヨーグルトの匂いは治まり、今度は何となく消毒用エタノールのような匂いがした。アルコール臭や生ゴミのような臭いがしたら発酵ではなく腐敗が始まっているので、一旦天日干ししなければならないらしいのだが、うちの母親に言わせると、私がアルコールの様に感じた匂いは木の朽ちた匂いであって、腐敗臭ではないと言う。大工の娘の言うことだから信じても良いのかもしれないが、何しろ初めてのことなので不安なのだ。そうこうしているうちに数週間が経ち、アルコールのような臭いはなくなり、インクのような、土のような匂いに変わった。これは、正常な匂いのはずである。色もだいぶ黒くなり、あとは熱が完全に冷めて熟成されるのを待つ。うまく出来上がっていることをただ願うばかりである。

 この「マット飼育」に関しては、未発酵のマットを使用して飼育される方も中にはいらっしゃるようで、危険は伴うものの必ずしも飼育中に発酵するとは限らないようだ。現に、庭先採取個体のノコ2頭も、未発酵のマットで無事蛹化した。また、デンプン質を加えて発酵させるのではなく、ごく少量のグルタミン酸ナトリウム(味の素)を添加したり、バナナを丸ごとマットに埋め込んで飼育される方もいらっしゃる。発酵マットの場合も、薄力粉を使う方、きな粉を使う方、フスマを使う方など飼育技法は千差万別である。私は今回、強力粉を800g加えたが、これはネット上で報告される「10%程度の小麦粉」というのを質量でとらえ、30リットルのマットの重さを量ったら8kgだったのでその10%の800gとしたわけだが、仕込んでから改めて確認すると、質量ではなく「体積比で10%程度の小麦粉」と書かれていた。ということは、30リットルであれば3リットルの小麦粉を添加せねばならなかったわけだ。この時点で、先人たちの道から大きく外れてしまった。だがその一方で、初めは少量の添加物から始めると失敗が少ないという情報もあって、さらには強力粉は薄力粉よりもグルテンの含有量が多いため、少量ながらもそれなりに効果はあるのかもしれない。いずれにしても、仕込んだときやそれ以降の気温や湿度、それに撹拌の度合いによっても発酵状態は変わってくるわけで、工場でしっかりと品質管理をしない限りは、2回仕込んでそのどちらもが同じ品質の発酵マットになるなど、まずあり得ないことである。こうして、自分で試行錯誤して餌から手作りで育て上げるところに発酵マット飼育の醍醐味があるように思えるし、手をかければそれだけ愛着も湧く。上手くいくか否か、ギャンブル的な要素もあって、なかなかに奥の深い世界なのだ。ただ、そこまで手をかけなくともペットショップや通販で発酵済みのマットを購入してしまうという手もある。こちらの場合は、常に同じ品質のマットが入手するという意味で、幼虫の安定した成育が望めるのが利点だろう。まずは卵から幼虫、前蛹、蛹、そして成虫と、無事に育て上げることができるか否かが我々初心者にとって最大のテーマになるので、こういった市販品も全面的に否定するのではなく、積極的に利用していきたいところではある(うーん・・・今回は画像が一枚もないな)。


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