---その21:サキシマ全個体羽化完了〜悲しみの羽化不全---
3月上旬。嫁さんの妊娠が発覚した。秋には3人目の子供が生まれてくることになる。必然的に、クワガタの飼育は規模縮小を余儀なくされるだろう。既に周りのクワガタを飼いそうな友人には里子を行き渡らせているので、今年また昨年のように莫大な幼虫を回収しても、そうそう里親が見つかるとも思えない。もちろん、飼育規模縮小の御触れが嫁さんから出ているわけではないのだが、家庭内の平和を考えれば自粛したそぶりは見せておくのが賢明だ。幸いにして比較的大型の個体が何頭も羽化しているので、一年間のブランクの後、様子を見ながらまた再開することは、越冬して何年も生きるDorcus系のクワガタならば可能なことだ。と言いつつも、オオクワについてはまだ累代を経験していないこともあって、ぜひ挑戦してみたいと考えている。サキシマは思いのほか多産で嬉しい悲鳴を上げることになったが、オオクワならばまさか「幼虫38頭回収!」などということにはなるまい。
そして3月下旬。サキシマの子供たちは全て羽化を終えた。思えば昨年5月、何もわからないままサキシマヒラタの成虫を貰い受け、ネットや図鑑で情報を集めては見よう見まねでペアリングから産卵、加令、蛹化、羽化と経験してきた。子供のころから大好きだったクワガタが、どのようにして成長していくのかを、ビジュアル的に知ることができたことは、私にとって大きな糧となった。♀を交尾に誘う♂の姿。樹皮を剥がした際に産卵木からこぼれおちる卵。孵化したばかりの透明感のある米粒ほどもない初令幼虫。僅か数時間で急激な成長を遂げる加令。そして、蛹室の中で劇的なメタモルフォーゼを見せる蛹化と羽化。その全てが感動の連続だ。特に蛹化直後の透明な蛹や羽化直後の白く瑞々しい鞘翅などは、「虫が苦手」という人であっても素直に認めてしまうこと間違いなしの美しさである。これらはみな、クワガタをこの手で飼育して得られた感動だ。図鑑に載っている写真では、この感動は絶対に伝わらない。もちろん、このサイトでも同じ事だ。目の前でその姿を見てこそ得られるものなのである。既に我が家からは多くの里子たちが知人の元へと旅立って行った。きっと、新たな飼い主の元で同じ感動をもたらすことだろう。
羽化不全個体の無残な姿
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ただし、どんな世界も楽しいことばかりが続くわけではない。クワガタ飼育においてもそれは同じで、無事に大型の個体が羽化したときの喜びの裏側には、羽化不全という暗く悲しい現実がある。上の写真は、3/30に羽化不全に陥った無残な♂の姿だ。多くの個体が立派な成虫へと育っている中で、なぜこの個体だけがこのような結果となってしまったのか・・・。原因は色々考えられる。この個体は飼育瓶の中で間もなく蛹化しようという時期、観察の際に強い振動を与えてしまった。また、蛹化から数日経ったころ、蛹室の壁面にビッシリと、一見するとダニに似た白い粒状の物質が発生したことがあった。この正体不明な物質を避けるためオアシス人工蛹室に移動したわけだが、その際、蛹の体幅からみて蛹室の幅が若干広すぎる印象を受けた。しかし、私が発見したときには左右の下翅を既に両方の中肢に搦めてもがいており、恐らく傷ついた下翅から流れ出たと思われる液体が、オアシスを黒く染めていた。その姿を見る限り、脱皮時に横転して羽化に失敗したとは考えにくく、むしろ下翅そのものの形成が羽化に間に合わなかったような印象を受けた。また、仮に前蛹期に外部から振動を受けたことに由来するのであれば、羽化ではなく蛹化不全となるのではないかと思われるが、蛹の形には特に異常は見られなかった。私のような素人には、羽化不全の原因が先天的なものであるのか、それとも何らかの外部要因による後天的なものであるのかはわからないが、ある程度の数の幼虫がいれば、そのうちいくつかは成長途中で息絶えたり、変態に失敗する個体がいることは理解できる。とは言え、無事に羽化できた立派な成虫に比べ、羽化不全個体というのは何とも後味の悪いものがあることは事実だ。今まさに最後の変態を終え、晴れて成虫の立派な体を手に入れようとしたその時になって、あろうことか自分の足に翅をからめてもがく姿は、いかにも苦しそうで見るに堪えなかった。この個体は、ネット等で得た情報から判断する限り、恐らく後食を始めることなくその生涯を閉じるだろう。それが彼の運命とは言え、幾十もの仲間たちが無事成虫となっている中でたった一頭、このまま死に行く以外に道がないとは、何と不憫な話だろうか。
シ・・・シオマネキ?
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また、羽化不全とまではいかなくとも、恐らく誰も貰い手がつかないだろうと思われる個体も存在する。上の写真がその個体だが、ご覧のとおり大アゴが左右で見事にアンバランスで、まるでシオマネキのようである。幼虫期に大アゴの片方を欠損すると、このような形で羽化するという情報があるが、この個体を育てた環境(発酵マットを比較的柔らかいタッパに詰めての飼育)を考えても大アゴが欠損したとはちょっと思えない。恐らく、羽化の際に頭部の殻がうまく外れず、大アゴをうまく伸ばすことができなかったのだろう。しかしこの個体、みてくれは悪くとも元気は人一倍で、他の五体満足な個体と比較してもかなり活発な部類に入る。大アゴの噛み合わないノコギリ同様、自然界では大きなハンディキャップとなるであろうこの個体も、人工飼育下なら何ら支障を来たすことなく天命を全うすることができるだろう。
前述の後翅伸張不全個体が羽化した翌日3/31、遂に最後の個体がコーヒー瓶の中で成虫となった。前日が前日だけに一体どうなるかとても心配だったが、こちらの個体は何ら問題なく羽化を完了していた。測ったわけではないので迂闊なことは言えないが、見るからに大きく立派な♂である。羽化不全でかなり後味の悪い思いがいつまでも私の中に残っていたが、最後の個体が無事に羽化してくれて本当に救われた思いだ。正しいサイズを測定するのはもう暫く時間が必要だが、結果が出次第追って2001年度サキシマヒラタ総決算を報告したいと思う。
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