孵化から数ヶ月が経つと、幼虫の大きさにはかなりのばらつきが出てくる。小さいものは10g程度であるが、大きなものは30gを超えるほどにまで育っている。残念ながら30g越えの個体の写真を撮っていないのだが、前回の「加令後40日前後の個体」よりもふた周りくらい大きくなり、体を丸めた状態での直径が爪楊枝の長さを超える程度に育ったと言えば、その大きさが伝わるだろうか。当然だが大きな個体ほど餌食いが良く、マットを交換する頻度も高くなる。よって、10月上旬に自作発酵マットの交換を行った際には、大型の個体群を優先した。そして一ヶ月あまりが過ぎ、小型の個体群についてもだんだん餌がなくなってきたようなので、そろそろ交換しようかと思ったのだが・・・。
11月下旬。第3回目の発酵マットを仕込んでから40日以上経っても、マットの色はまだ茶色く、発酵臭もなくなってはいない。気温の低さを補うために電気毛布でくるみ、水分の過度な蒸発を防ぐために蓋にビニールを噛ませた。このため発酵に不可欠な酸素が不足したのだろうか、前2回と比較してもあまりに違いすぎる。発酵マットは失敗すると発酵ではなく腐敗してしまうという。発酵と腐敗はまさに背中合わせで、当然ながら腐敗したマットは幼虫の飼育に使えない。いずれにしても25頭(内3頭は菌糸瓶なので実質22頭)分の餌を賄うマットを自分で仕込むのは、ここまで幼虫が育った現在となってはちょっと不可能なので、今回は市販の発酵マットを用いて♀8頭分の餌を交換することにした。
一方、(電気毛布使用のため)過去最高にコストのかかった自作のマットについても、実験的な意味合いを含めて3頭ほど幼虫を投入してみた。ところが、恐らく成分が異なると思われる市販発酵マットに投入した幼虫が、水分過多で酸欠になりかけた個体を除いて何事もなかったかのように潜ってくれたのに対し、自作マットに投入したこの3頭は、いったんは潜ってくれるものの、翌朝にはマットの表層部にまで上がってきて、蓋をガリガリやっていた。幼虫は餌が合わないとその環境から逃げ出すためにそのような行動をとるそうで、これはやはりマットが腐敗しているのかも・・・と思い、市販発酵マットへの引越しをしようとして幼虫を取り出したとき、その幼虫は糞をした。何らかの刺激を受けた幼虫が糞をするのは見慣れた光景であるが、問題はその色である。明らかに、今までの糞より淡いのだ。幼虫の糞の色は当然ながら食べている餌の影響を受ける。どう考えても、(イヤイヤながらも)餌を食べているとしか思えない。であれば、これはこのままもう暫く様子を見てみよう。
結果的に、自作マットの幼虫は投入から一週間ほどで蓋かじりをやめ、マットに潜ってくれるようになった。餌を口に入れる姿も瓶のガラス越しに確認できたので、マットが腐敗していたのではなく、単に新しい餌に慣れなかっただけなのかもしれない。思えば、1kgの強力粉を買ってきて、第2回目のときに秤で量って500g使用し、第3回目のときは残りを全部放り込んだ。もし1kgを謳う強力粉が、100g程度多めに入っていたとしたら、今回は前回より2割も添加物が多いことになる。仮に腐敗を免れても、餌としては従来とかなり異なったものが出来上がっていたに違いない。前回、前々回と2回続けて難なく発酵マットが完成し、しかも幼虫の成長度合いが良かったために、発酵マットというものに対して少々舐めてかかっていたかもしれない。「発酵マットは難しい」「発酵をうまくコントロールするくらいなら、菌糸瓶のほうが楽」という先人たちの言葉の意味が、多少なりとも実感できたような気がする。
サキシマヒラタ♀新成虫
OLYMPUS E-10
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12月上旬。餌の交換から程なくサキシマ終令の♀が蛹室を作り、これを筆頭に次々と蛹化が始まった。観察をして判ったことだが、幼虫が飼育瓶の中を頻繁に移動するようになると、近いうちに蛹化するようだ。これはおそらく蛹室を作るのに適した場所を探しているのだろう。マットがあまりきつく詰まっていない瓶の個体は、瓶の中のマットを一ヶ所に押し固めて、その中に潜り込んで蛹室を作る。こんな虫でも一丁前に工夫するから不思議なものである。蛹室を完成させると、数日で体の水分が抜け始まり、表面にふやけたようなシワができる。表皮のすぐ下にまでびっしりとついていた脂肪が剥がれ、それが内部で蛹の体となっていく。このため、当初は完全に不透明の体をしていた幼虫が、前蛹期には半透明となる。やがて前蛹は丸めていた体を棒のように伸ばし、腹部の蛇腹が平らになって臀部の水分が抜けきると、いよいよ蛹化が始まる。蛹化の様子は以前に掲載したノコギリクワガタの連続蛹化写真を参考にしてほしい。種は異なるが、基本的にはアレと全く同じである。
次々と蛹化する♀に続き、12月中旬〜下旬には、♂の個体群も蛹化が始まっていた。さすがに♀と比べると大きく迫力もある。中には素人考えながら75mmを越えるのではないかと思われる大型の蛹もいて、羽化への期待が高まる。クワガタは幼虫時代から雌雄判別が可能だが、その方法には尻から3節目にある左右一対の卵巣細胞芽で見る方法と、もう一つ、頭幅で判断するというものがある。1頭、どう見ても♀にしては大きすぎる頭幅を持ちながら、卵巣細胞芽らしきものが見える事から敢えて♀と同定していた個体がいたが、蛹化したら実は♂だった(笑)。もしこれが予想通り♀であれば、想像を絶する大きな♀が羽化すると思っていただけに残念だが、全体的に♀に偏りがちなので、里親探しを考えれば貴重な♂ということになるのだろう。
年も押し迫った12月26日、最初に蛹化した♀の個体がついに羽化した。蛹室内なので腹部しか見ることはできないが、瓶の底面にもかかわらず羽化不全等はなかったようだ。蛹は末期になると変化が速く、表皮の内部に成虫の体が透けて見えるようになったかと思うと、その半日後には水分が抜けてまるで真空パックのように内部の体に貼り付き、更に半日ほど経って臀部にあるイルカの尻尾状突起が完全に萎みきると、うつ伏せになって羽化が始まる。この様子も、ノコギリクワガタと同様だ。
1頭目の羽化を受けて、他に羽化しそうな個体がいないか確認したところ、内部の体が透けて明日にも羽化しそうな♀がいた。蛹室が狭いと見えて、幼虫時代の皮が臀部にからまったままとなっている。羽化の際には、下方に折り畳んでいた前胸部および頭部を前方に起こし後翅を伸ばすことになる。つまりそれだけ広いスペースが必要となるのだが、この蛹室を見る限り、どう考えてもそれが可能な広さとは思えない。幼虫の皮さえ完全に脱げきれていないというのに・・・。羽化不全を防ぐため、この個体には以前のノコギリクワガタ同様、オアシス人工蛹室を用意することとした。蛹化直後および羽化直前の蛹に刺激を与えることは場合によっては命取りとなるので、神経をすり減らしての作業となる。瓶の一番奥で蛹化しているから掘り出すのも一苦労だったが、翌日、苦労の甲斐あってこの個体も無事に羽化することができた。上に掲載した写真は羽化から3日後、12月30日に撮影したものだが、まだ若干の赤みが残るその体は艶もあって実に美しい。カブトもクワガタも♂ばかりがもてはやされているが、こうして自分の手で卵から育ててみると、♀も充分にカワイイものである(笑)。
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