---その15:ノコギリ越冬準備〜里子幼虫割り出し---
9月下旬。日中の気温はまだ暖かいものの、夜はだいぶ冷え込むようになった。この温度変化に体が付いていけず、少々体調を崩し気味ではあるが、そろそろクワガタたちの冬支度を考えなければならないころかもしれない。まずは、現存する個体を整理してみよう。
オオクワ成虫6頭(うち3頭は近々親戚宅へ引っ越し予定)、サキシマヒラタ成虫4頭、コクワ成虫6頭(うち2頭は蛹室内)は越冬可能種なので、気温の低下と共に次第に休眠状態となるはずだ。カブト成虫2頭、ミヤマ成虫1頭、ノコギリ成虫1頭は基本的に冬を越さない種のため、近いうちにその生涯を終えるだろう。ファブリースもノコギリクワガタ属のため、恐らく冬を越すことはないと思われる。問題は、7月に自宅にて羽化したノコギリクワガタ新成虫2頭である。
この2頭の個体は、今年の春に嫁さんの実家の庭先において、朽ちた切り株から幼虫で採集したもので、私のクワガタ飼育の発端となった、いわゆるキーパースンだったりする。採取したときはそれが何種の何令であるかもわからなかったが、6月の中旬から下旬にかけて蛹化し、7月中旬には羽化して成虫となった。ノコギリは初夏に羽化したものであればその夏に活動するが、盛夏以降に羽化した個体はそのまま翌年の夏まで蛹室内で休眠状態となるという。ただそれは、全く光の届かない蛹室内での話であって、我が家のノコたちのように人工蛹室内で思いっきり外光を浴びながら、しかも7月という微妙な時期に羽化した個体の場合、活動するのか否か非常に判断がつきにくい。羽化後、体がだいぶ固まってきてからマットを深めに敷いたケースに入れたが、時々姿を見せるものの、結局一度もゼリーに手をつけることなく、8月以降はマットに潜りっぱなしとなっていた。
この2頭についてはどう考えても「今年活動した」とは言い難いものがあるので、このまま来年まで休眠させるつもりでいたのだが、何度もゼリーを入れては一口も食べないために次第にカビが生えて交換し、その度にシロップが垂れてマットがかなり汚れていた。そのためか例によってダニが多く入り込んでおり、恐らく土中の新成虫は無事と思いつつも、本格的に寒くなる前に一度マットの交換をしておいたほうが良いと思われた。
秋分の日に絡んだ3連休はどの日も快晴で、日中はとても暖かかったのでマットを掘り起こしてノコギリの新成虫を取り出した。恐らく生きているだろうとは思ったが、案の定2頭とも健在で、赤みが強かった体もすっかりノコギリらしい褐色になっていた。羽化直後の姿は以前に連続写真として掲載したが、腹部まで完全に鞘翅の下に収まってからは一度も写真を撮影していなかったので、掘り出したついでに2頭並べて撮影してみた。完全活動中なら♂を2頭並べて撮影するなどちょっと怖いが、これも休眠個体ならではと言ったところか。
ノコギリクワガタ♂新成虫
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左の個体は以前の記事に書いた「右の大アゴが下方に曲がっている」個体である。成虫になっても噛み合わない大アゴは当時のままだが、こうして無事に羽化して元気に生きている。右の個体は蛹化ならびに羽化の一部始終を撮影させてもらった個体だ。左の個体より小型だが大アゴとボディとのバランスも良く、小さいながらも整った形をしている。2頭とも触角や付節の欠損等がないことを確認し、熱処理済みのマットを新たにセットしたプラケースに収容した。
連休の最終日にはS氏をはじめとする3人の友人たちがやってきて、8月にセットした産卵木の割り出しを行った。この産卵木、芯も太いながら表面積も大きく、数多く産卵させるには最適と思っていたのだが、掘り出して表面のマットを落としてみたが、産卵痕らしきものがあまり確認できない。既に30頭もの幼虫を得ていながら、友人たちに里子に出すにあたってわざわざ産卵木のセットから行ったのは、他でもない「幼虫を割り出す感動」を味わってほしかったからである。なので、もしこの産卵木から1頭の幼虫も回収できないとなると、まるで出鼻を挫かれたようなことになってしまうわけで、数頭でも構わないからぜひとも出てきて欲しいところなのである。
あまりに少ない産卵痕に前回の惨澹たる結果を思い出し、少々不安になりながら木口に鉈を入れていくと、あった・・・。幼虫の食い進んだ痕「食痕」が見つかった。これが見つかればあとはその周辺を年輪に沿って指で剥がしていくと、幼虫が出てくるはずである。・・・と、ほどなく孵化から1週間程度の初令幼虫が顔を出す。「おお〜! いた〜!」との感嘆の声に胸をなで下ろし、更に割り出し作業を続ける。結局、回収できたのは産卵木から3頭とマットから1頭の計4頭のみ。期待値を大きく下回る結果だったが、実際に朽木を食い進む幼虫の姿を見せることができただけでも良しとしよう。
とはいえ、3人の友人たちに幼虫を分けるのに4頭では話にならない。まぁ、そうなった場合は当初より既に回収してある幼虫を配れば良いと楽観してはいたが。そんなわけで、回収済みの個体より比較的若いものを8頭選び、今回割り出した4頭を合わせて計12頭の幼虫を里子に出すことにした。つまり、友人一人あたり4頭の幼虫を託すことになる。幼虫の飼育法には以前に伝えたとおりいくつもの手法があるが、途中で餌を変えることは幼虫に多大なストレスを与えるためあまり好ましくない。できるだけ若い個体を選んだのは、成長の初期段階であればまだ順応性も高いため、環境が変わってもダメージが少ないからである。
正午を回って腹も減ってきたため、今後の飼育法の検討を兼ねて昼食に出かける。男4人で480円のランチを食べながら、菌糸瓶でいくのか発酵マットでいくのかを話し合う。親となった虫は幼虫時代に菌糸にて育ったとのことなので、菌糸にて育てたほうが大きくなりそうな気はするのだが、自分が使ったことのないものを人に勧めるのもどうかと思う。だが発酵マットを今から仕込んでいたのでは間に合うはずもなく、かといって出来合いの発酵マットというのも何だか味気ない。発酵マットは自分で仕込むところにその醍醐味があるように思えてならないのだ。尤も、これからの季節は気温も低く、発酵マットを自分で仕込むのには適さないのも確かである。そんなこんなで小一時間話し合った結果、全ての個体を同じ方法で育てるのは失敗したときのリスクがでかいため、2頭を菌糸瓶、2頭を発酵マットで育てるとの結論に達した。
ペットショップにて菌糸瓶と発酵マットを購入し、100円ショップでマット飼育個体用のガラス瓶を買う。このガラス瓶は蓋の裏側に密閉用のシリコンパッキンが付いており、うまく加工することで通気を確保しながらダニのシャットアウトが可能な飼育瓶を作成できる。もっとも、大きさそのものは中型のコーヒー瓶を半分の高さにした程度なので、♀はともかく♂が羽化まで過ごすには小さいわけだが、終令中期程度までなら充分飼育できる大きさではある。12頭を里子に出した後も、孵化したばかりの幼虫が数頭手元に残る予定なので、私も二つほどこのガラス瓶を購入した。
購入資材を自宅に持ち帰り、ガラス瓶の蓋の加工と幼虫の投入を行う。大きな個体に育てるためには、なるべく若いうちから菌糸瓶に投入するべきなのだろうが、ヒラタ系の場合はあまり若い個体を投入すると、幼虫が菌糸に負けて死んでしまうという。大きな個体が欲しいのはやまやまだが、全てが初めての経験なので安全策をとって割り出した幼虫は発酵マットに投入し、菌糸瓶には亜終令以上にまで育った個体を投入した。
3人の友人に計12頭の幼虫を里子に出し、山のように積んであった幼虫飼育タッパが書棚の上から姿を消した。あまりに多産なサキシマに、一時はどうなることかと思っていたため、かなりの数が片付いてスッキリとしたが、同時にちょっと寂しいような気持ちにならなくもなかった。娘を嫁に出した後の父親というのは、こんな気持ちなのだろうか(笑)。翌日、S氏より「元気に動いている。かわいい」とのメールが入った。昨日の今日で早速のことだったが、そういう便りは実に嬉しい。我が家の幼虫たちの成長も楽しみだが、目の届かないところで育つ彼らが、無事羽化してくれることを祈るばかりだ。
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