---その11:粘菌発生!?〜産卵木惨敗---
8月中旬。友人S氏宅へサキシマヒラタの子を里子に出すべく、3回目の産卵木をセットする。実は2回目の産卵木は2週間ほど前に既に回収して、濡れ新聞紙に包んで保管してある。後でこれを割ってみることにしよう。さて、3回目の産卵木であるが、私が今年買った中で最も太いものである。かなり巨大な産卵木のため、一本のみでのセットとなる。親虫はこれまで♀3頭セットしていたが、怪我を負っている1頭は大顎の先端も折れ、どう見ても産卵木に卵座を設けるなどできなそうなので、繁殖から外して小さなプラケースで飼育することにした。
ここで、何も産卵木ごと里子に出さなくても・・・と思われるかもしれない。私も亜終令中期以降のものを渡した方が確実だろうとは思う。でも成虫ならともかく、いきなり幼虫をもらってもあまり感動がないのではないだろうか。産卵木の割り出しから経験すれば、幼虫たちに愛着を感じることができるし、特に初令時の短期間での成長ぶりは目覚しいものがあるので、ここはやはり生命の一番最初の段階から見てもらうことにした。それに幼虫の割り出しほど面白いものもないだろう。ヘタするとものすごい数の幼虫を押し付けることになるのかもしれないが、飼いきれないくらい多ければ引き取れば良いのだ(その場合、うちはとんでもないことになるが^^;)。
濡れ新聞紙で保管してある産卵木を見ると、新聞紙の表面にまるで血管のような怪しげな物体が伸びている。いかにもブキミで邪悪な感じだ。この邪悪っぽい物体が一体何者かというと、これが噂に聞く「粘菌」というものらしい。あまりにブキミすぎて、思わず写真に撮るのを忘れてしまったほどである。良く観察すると、サキシマの幼虫が入っているタッパも、マットとタッパの僅かな隙間に、まるで網でも張るかのように伸びている。ただしタッパのものが鮮やかな黄色であるのに対し、産卵木の新聞紙に伸びたものは乳白色だ。私はこれがクワガタ(や人間)にとって有害か無害かも全くわからないので、昆虫フォーラムで質問すると同時に、高校で科学の講師をしている友人K氏にも訪ねてみた。私の「粘菌って一体ナニモノ?」という質問にK氏は、まるでお約束のように「お年寄りが毎年貰えるお金」と思いっきりボケてくれたが、その後でしっかりと「粘菌は動物界や植物界といったカテゴリの一つである原生生物界に属しており、動物でも植物でもない」と説明してくれた。更に、我々がよく食べている椎茸などのキノコも、菌類界と呼ばれるカテゴリに属しており、実は植物ではないという。
粘菌は常に姿を変え、私が見たようなネバネバした移動物体でいることもあれば、バリバリに乾いて休眠していることもあれば、カリフラワーのような子実体(つまりキノコ)を形成したかと思うと、突如粉末状の胞子を撒き散らして姿を消すという。この胞子のおかげで昆虫マットがまるで埃でも被ったかのようになってしまうことから、粘菌には「ムラサキホコリ」や「タマホコリ」のように「ホコリ」の付く和名を持っているものが多いらしい。K氏によれば、「粘菌がクワガタにとって有害かどうかはわからないが、とりあえずどこにでもいる別に珍しくもない生物だから、それがクワガタのケースにいたからと言って騒ぐほどのものでもない」らしい。うーむ・・・。「粘菌」という生物がこの世のどこかに存在するということは知っていたが、こんなに身近に存在するものだとは思いも寄らなかった。ただしクワガタに有害か否かがわからないと何の解決にもなっていないわけで、これについては昆虫フォーラムの常連さんにお話を聞いてみた。すると・・・。粘菌はクワガタ飼育における環境指標の一つとなる生物で、これが発生していれば環境的にはかなり良い状態であると判断できるそうだ。逆に言えば、粘菌すら生きられない環境ではクワガタなど育つはずもない、ということが言えるのだろう。
さて、そのブキミな物体が実は無害とわかると気分も全然違ってくる。どこの世界にも見た目で損をしている奴はいるものだ。あの長い足をたくさん持っていかにも邪悪な雰囲気を醸し出している「ゲジ」も、顔のアップはかなり愛くるしいし、日ごろの行いも人知れず悪い害虫を駆除してくれているという点で実は益虫だという。しかも毒も持っていないし、臆病だからまず人に危害を加えることもない。なのにちょっとばかり脚が長くて本数が多いばかりに「不快害虫」などという全く不名誉なカテゴリに分類されてしまっている不憫な虫なのである。・・・それはさておき、粘菌の延びた新聞紙を剥がして産卵木を取り出す。前回の何の知識もなくあてずっぽでセットした産卵木とは違い、今回はしっかりと加水して期間もしっかり3週間セットしたものだ。これを割ると場合によっては30頭からの幼虫が出てくるのではないかと思い、100円ショップでプチケースを大量に買い込んできた。製氷皿に蓋がついたようなケースで、横に3つ繋がっている。これが3つで100円だ。こいつを400円分買ったので、最大36頭の幼虫を収容できる・・・と、かなり気合を入れて割ったのだが、出てきたのはどう見ても孵化しなそうな色の悪い卵が4つ。そのかわりマット内から何頭か初令幼虫を回収できたが、ちゃんと情報を得てヒラタに最適と思われる環境を作ってやったのにこの結果・・・。生き物はマニュアル通りにはいかないということを痛感した。結局、この3本の産卵木は粘菌を培養しただけで終わってしまった。嗚呼・・・36頭分のプチケース・・・。(x_x;)
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